早稲田松竹は入れ替えがなくて、それがとてもよかった、優しさ。喫煙者じゃなかったらよかったのにと、とても久しぶりに思った。
受付で立ち見整理券をもらってから、40分位暇があったので佇まいが画廊のような古書店に寄った。入ってすぐの棚に、欲しかった本(瀧口修造がつくったクレーの画集と、モーリスドニのカタログ、あとアンドレケルテス)が3つも並んでいたけどすべて買いたい値段の1.7倍くらいの値がついていたので興味ないフリをして通り過ぎた。職業柄大抵欲しい本は決まっていて、古書店に行くと値段と状態だけ確認してあとは懐具合と相談、ということになるんだけど、そういう振る舞いってはたからみるとすごく嫌な感じだろうなと思う。背文字だけみて棚から取り出してまず後ろの見返し開いたあと天地小口確かめて書き込みなどないかページを素早く捲る様子というのはみていて気持ちの良いものでもない。しかし立ち見券の集合時間があったからやむなく素早くみた。自分の他にお客が一人いたから助かった。結局、二笑亭の文庫(式場隆三郎著、藤森赤瀬川他による増補のある版)と、アレントの政治論文集を(友達の妹がアレントとアガンベンを好きだと言っていたということを思い出しながら)買った。綺麗な店内なのにレジの前に小学生の頃朝礼などで使われていたような、電池駆動のマイクとスピーカーのセットが置かれていて大変そうだな、と思った。値段を確認して懐具合と相談したくなる本が相当数あったから、店を出てから少しだけ走った。松竹にくるのが初めてだったから勝手がわからなくて、少しだけ大通りで信号無視したらやばいかなと考えてやめた。結局前の回が満席だったせいで時間が延びていて、全然余裕だった。戸の前で待たされている間、後ろであまり映画に興味がなさそうな老夫婦が話していて、思ったことがそのまま口から垂れ流し、という喋り方の旦那のほうが「今日の映画はびっくりマークが二つとも付いてるね」と言っていて、「確かに」と思っていたら女の人は「シニアって65歳からかな?」と返事をして、そのあとはよく聞き取れなかったけど、30秒後くらいにバイトリーダーみたいな係の女の人の声で「一般で買ったチケットを、シニアに変更だから400円かける2で800円」と言っているのが聞こえた。
カネフスキーとアレクセイゲルマンの二本立てで、どちらかというと動くな、死ね、甦れ!の方が出来が良いのかなと思っていたけど、フルスタリョフ、車を!のほうが全然良くできていた。音がものすごくモンタージュされていたような気がするけど、Wikiとかをみる限りそういうことが書いていなくて、帰ってから次の日同じ上映を見に行く人に、「音が変だったよ」とだけ伝えたのだけど、見終わったその人から「カネフスキー確かに音が変だね」と言われてかなり混乱した。アレクセイゲルマンの音響について何かご存知の方は力を貸して下さい。カネフスキーの音は不愉快だった。その日は帰ってから地下室のメロディをみたんだけど、「対象aとしてのお金」ということの典型的な例を示してあったこと以外完全な駄作だった。ハリウッドとかフランスのおさだまりノワール(そんなジャンルがあるか知らないが)をみてると、自分の嫌いな感じでも、ゲルマンとかカネフスキーみたいな、他の人のやったことのない表現をしようという試みだけですごくえらいよな、という気持ちになる。その点クストリッツァのアンダーグラウンドってやっぱり凄さがわからない。室内で自転車乗ってる映画で良くないのあれしかみたことがない。